毎月15日発行
第21回:アメリカのサービス業とモチベーション


アメリカのサービス業の接客はあまり良い評判はありません。ファースト・フードでは、いきなり、“What do you want!?(何が欲しいの!?)”と言われたりもします。日本のように、笑顔で“こんにちは。いらっしゃいませ。”なんてまずありません。もちろん、高級ブランド店やジャケットを着ていないと入りにくいような高いレストランではそんなことはありません。ただし、僕が日常的に行くようなお店の接客はあまり良いとはいえません。


もちろん、アメリカにも気持ちの良いサービスももちろんたくさんありますし、日本にはない良い面も結構あります。杓子定規ではなく、注文には結構細かく応じてくれたりします。ただ、一般的にサービス業の評判は良くありません。どうしてこういうことが起こるかというと、一つは文化の違いでしょう。アメリカのサービス業の接客が他の国に比べて特別悪いというわけではなく、日本の接客が特別良いのかもしれません。また、何が良いサービスかということにも文化の違いはあるでしょう。日本でも中華料理や韓国料理などで料理はとても美味しいけれど、接客は良いとはいえないところも多くあります。違う文化で生活している人は、日本人の接客がまとを得ていないと思うこともあるかもしれません。

もう一つ理由は、マニュアルを創る人と、マニュアルに従う人の区分がかなりはっきりしているということにあるでしょう。これはかなり大きな問題です。アメリカは日本に負けず劣らずの学歴社会です。大学卒業していなければ就けない職業はたくさんあります。高校卒業で会社に入って、たたき上げでがんばって、昇進していくということは、日本よりもまれです。そしてマニュアルを創る人と、それに従う人という区分ははっきりしています。マニュアルに従う側の人が、マニュアルを創る人になろうとおもったら、大学や大学院に行ったりして、学歴のギアチェンジをしないとほとんど不可能なのです。さまざまな国からの移民や経済的に恵まれないクラスがこの区分を成り立たせています。

マニュアルに従う仕事をいくらがんばってやったとしても、マニュアルを創る仕事への昇進の可能性は小さいです。そうすると、「がんばって働こう!」というインセンティブはなかなか生まれません。マニュアルに従って決められた時間、きめられたように仕事をこなせばよいという事になるわけです。



もちろん、会社はどうにかして従業員のモチベーションを高めようとしています。例えば、Kマートなどは長年勤めている従業員にストックオプションを用意しています。ただ、会社の規模が大きくなりすぎると、「自分ががんばらなくても誰かががんばる」、「自分だけががんばると、バカを見る」ということになってしまい、その効果は高くありません。つまり、アメリカのサービス業の評判の悪さの背後には、社会における分業のあり方と、マニュアルに従う人たちをどうやって動機付けるかという問題が関係しているのです。

実は、「アメリカはサービス悪いなぁ〜」なんて笑っていられるものではないかもしれません。日本でも、徐々にこの問題が生まれつつあるようです。日本人の多くが高いモチベーションを持っているとは言えなくなってきています。学校にも行かず、職にも就かないNEET(ニート:Not in Education, Employment, or Training)が増えてきています。彼らをどう動機付けるかは大きな問題でしょう。また、将来、移民を受け入れようということにもなるかもしれません。その時、彼らのモチベーションをいかに高めていくのかは社会の大きな問題となってくるでしょう。アメリカの場合は、必ずしも成功しているとは言えません。マニュアルを創る側とマニュアルに従う人の間の差は大きくなっています。



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