毎月15日発行

第24回: アメリカの大学:知識の分業と集積、気兼ねのなさ

アメリカに来てちょうど3年間が経ちました。早いものでもう日本を離れて4年目になるのです。その間、日韓共催ワールドカップだけでなく、阪神タイガースの優勝すらも見逃してしまいました。
シカゴに来て最初の授業の感想は、「分からない!」ということでした。英語に慣れていないこともあるのですが、自分に何を期待されているのか、アサインメントはどの程度まで時間をかけてやるものなのか、テストはどの程度難しいのか、どんなことを授業では言えばよいのかなどなど、分からないことだらけだったのです。

ただ、時間がたつうちに少しずつ要領を得てきたのか、分からないことに慣れてきたのか、アメリカの大学での生活がずいぶん快適になってきました。特に、日本の大学とは違った良さがあることに気が付きました。今月と来月の日記では、この3年間を振り返りたいと思います。まず、今月はアメリカの大学、来月はアメリカという国について気が付いたことを3項目ぐらいずつ書きたいと思います。



それでは、アメリカの大学について感じたことを書きます。

まずは、アメリカの大学と知識の分業についてです。アメリカでは「大学」の役割がかなり戦略的に考えられています。アメリカの大学はアサインメントの量が多いとよく言われます。確かに多いです。ただ、だからといって、詰め込み型ではないのです。アサインメントが多いのは、授業に出るためにはそれだけ多くの準備が必要だからです。本を読めば得られる知識は形式知です。それは誰でも時間をかけて本を読めば身につけることができる知識です。アメリカの大学では、形式知を提供するのではなく、暗黙知の提供にその重点がおかれているのです。暗黙知は、授業でのディスカッションや人との議論でしか身につけられません。時間がかかりますし、その場にいないといけません。ここにこそ大学の役割があると考えられているのです。形式知であれば、自分が好きな時間に好きな場所で獲得すればよいのですが、それだけでは個人の競争優位は築けないのです。「形式知のアップデートはアサインメントでもって自分でする。」そして、「授業ではディスカッションやプレゼンテーションなどを通じて暗黙知を構築する」というわけなのです。日本ではこれがあいまいになっています。本の内容を先生が説明するだけの授業もあったりしするのです。現在、有名大学で使われている教科書などはアマゾンなどですぐに手に入ります。ただし、アメリカの大学で使われている教科書を一生懸命読むだけでは、実際の授業にでて得られるものの半分も得られない仕組みになっているのです。これによって、大学に高いお金を出していく意味が生まれているわけです。

次に、アメリカの大学は知の集積を創っているということです。どこの州にも大きい大学は1つか2つはあります。そして、その大学の周りは大学の街となるのです。学生は寮やアパートに住み、みんな大学のすぐ近くにいるのです。生活圏が一緒なのです。つまり、寝ても冷めてもいつも一緒なのです。同じところで食事をし、同じところで買い物し、同じバーで飲むのです。飽きることもありますが、知識の集積地がそこにあるのです。日本の大学も学生街はありますが、ほとんどの学生が同じところで生活しているというわけではありません。学生向けのお店などがある程度です。また、地元の企業も大学に奨学金を出したり、施設に寄付をしたりして大学をサポートします。地域の人々もボランティアで大学の行事に参加したりしています。大学の業績がよく、学生がたくさん集まる街になれば、地元のお店も儲かります。優秀な人が集まれば、そこで新しいビジネスも生まれます。アメリカでは、街の中心に大学があり、知識創造の集積の場になっているのです。郊外に移転し、集積が壊れていっている日本の大学と、集積を創っているアメリカの大学。この差は大きいです。

そして、最後に、アメリカの大学では気兼ねすることがありません。着ているものも常にジーンズにGapのT-シャツです。楽なものを着ています。おしゃれな人ももちろんいます。が、それも、「みんながおしゃれしているから、私もしないと」という感じではありません。自由に自分の好きなカッコをしているのです。
授業で質問をするときにも、先生の顔色をうかがったりすることはありません。聞きたいことは聞けばよいのです。馬鹿げた質問をしたとしても、それだけで先生にジャッジされることはないのです。そのため、学生はどんどん質問します。その質問に対しては、先生だけでなく、みんなで考えて答えをだすのです。ちょっと気兼ねしなさ過ぎて、お腹も背中もお肉がでちゃってる子もいます。ただ、この気兼ねのなさ、気楽さはなにごとにも代えがたいものがあります。この雰囲気は僕はとても好きです。



アメリカの大学の学費は安くありません。それにもかかわらず、学部を卒業した学生がMBAやLaw Schoolなどの大学院に戻ってきて勉強しています。大学がキャリアを変えるためのギアチェンジの場として機能しています。また、様々な国から学生が学びに来ています。中国や韓国などからも多くの学生が日本を跳び越してアメリカの大学で勉強しています。アメリカは英語が公用語ということが大きな理由の一つかもしれません。ただ、それだけではないのです。学生に大きな投資をさせるだけのリターンを提供しているのです。留学はなかなか踏ん切りがつかないものかもしれません。面倒な手続きもありますし、お金の心配もあるかもしれません。リスクもあるかもしれません。ただ、アメリカの大学は、結構“楽しい”ですよ。


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