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第4回:
ケチじゃなくて、清貧
▲LSEの大学院の卒業式は年に1回、12月です。
8月には卒業していたのですけれども、式に出席するためにロンドンに戻りました。
みんなガウンを着るのですが、学位によって色も形も違います。マスターは黒で、ドクターは赤。断然、黒の方がカッコイイです。
▲ロンドンから帰るとオランダは一面銀世界になっていました。樹氷も現れました。
オランダの積雪量は少なく、雪も樹氷も2日ぐらいでなくなってしまいましたが、寒い日には運河が凍ります。
 先月、3ヶ月ぶりにロンドンに行ってきました。街はクリスマスのイルミネーションにあふれ、ショッピングをする人達でにぎわっていました。ロンドンのクリスマス・セールは有名で、セール品をもとめてヨーロッパ中から人が押し寄せてきます。日本でも有名なハロッズもブランド品を求める人たちで、てんやわんやになります。アラブのお金持ちやら(ハロッズはとにかく中東系のお金持ちの人が多いのです)、ポッシュなイギリス人、韓国の団体旅行客、日本のOLまでいろいろです。

 ただ、なぜかオランダ人はロンドンのクリスマス・セールには行きません。オランダ人の「ブランド」観はずいぶん僕たち日本人のものとは違っているようなのです。広告会社の行った調査によると、オランダで最もブランドイメージが高いのは、なんとIKEA(イケア)だったのです。しかも、イメージは「トレンディ」。これはちょっと驚きです。ロンドンでIKEAがトレンディだと思っている人はおそらくいないでしょう。シカゴでもいないですよ。第2位に輝いたのは、グーグル。これも微妙。第3位は、クリニクラウンズ。クリニクラウンズとは、プロのピエロが病院を訪問し、入院している患者(主に子ども)を笑わせ、希望を与えていく慈善団体です。まさに、ロビン・ウィリアムズのパッチ・アダムスです。

 日本で「ブランド」といったら、エルメス、ヴィトン、シャネル、グッチ、カルチェ、メルセデス、ロレックス・・・・・と永遠と続くヨーロッパのブランドのリストがでてくるでしょう。「ブランドイメージが高いものは?」と聞かれて、「グーグル」と答える人はなかなかいないでしょう。イギリスだってそうです。英国王室御用達のブランドの数々が出てくるでしょう。

オランダはその点、かなり違います。そもそも彼らは知らないのです。ブランドを。エルメスもシャネルも「なにそれ?有名なの?」という感じです。全然ブランドなんかには興味がないのです。消費社会の蚊帳の外なのです。
旧共産圏を除くヨーロッパの国には、“ブランド”で商売をする企業があります。フランスやイタリア、イギリスはいうまでもなく、スイスには時計、スペインには皮革、ベルギーにはチョコレート、ドイツには車などなど。いわゆる“ブランド品”といったらほとんどヨーロッパのものです。そういったブランドは、オランダには一切ないのです。

 「それって、オランダが貧乏だからじゃないの?」という人がいるかもしれません。お金がないから、ブランドなんて買っている余裕がないんじゃないの?というわけです。ただ、これは違います。たとえば、2005年の一人当たりのGDPではオランダは世界で12位でした。決して貧乏なわけではありません。日本なんて15位だったのですから(最近ではさらに下がって、18位に転落してしまいましたが)。オランダはEUでも3番目に裕福な国だといわれています。つまり、お金はあるけど、ブランドには興味ないのです。

 オランダ人の倹約家ぶりはヨーロッパでは有名です。“ダッチアカウント”という言葉があります。“ダッチ(オランダ人)”の“アカウント(勘定)”という意味で、割り勘のことです。飲みに行ったときに、割り勘にすることを、ダッチアカウントというのです。パブに飲みに行って、ダッチアカウントをするのは、とってもケチなことなのです。

 オランダの食事はかなり質素です。ランチは、ほんの少しのサンドウィッチ。しかも、中身は、チーズとハムだけです。BLTとかツナサンドなんてありません。カツサンドなんて夢のまた夢です。暖かいものは夜に少し食べるだけです。外食もあまりしません。外に出かけるときにはかならず自家製のサンドウィッチをもって行きます。デパートに買い物に行くときもサンドウィッチをもって。チーズとハムだけの。

 こんな倹約家のオランダ人ですが、ただお金を使わない、いわゆる“ケチ”なわけではありません。顕示的な消費や浪費をしないのです。一人当たりの寄付の額はヨーロッパでもトップクラスです。ブランド品はほとんど買わずに、かなりの寄付しているのです。若い人たちですらです。クリニクラウンズはこうした寄付に支えられて入院中の子供たちを応援しているのです。ブランド品をたくさん買って、ほとんど寄付をしない人たちとはかなり違うお金の使い方です。

 人々のお金の使い方は大きくその国の経済を左右します。あまりに無駄遣いしないのも、経済にとっては問題です。ただ、こんなお金の使い方を見ていると、経済の成長だけが全てじゃない社会も良いなと思ってしまいます。


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