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清水:文化の話から、もう少しレベルを落として、組織の話に移しましょう。チャレンジができる組織にするためには、どうすれば良いでしょうか?

シーリグ:それには、いろいろありすぎてリストアップするのは難しいですね。今、執筆中の本はクリエイティビティについてのものです。ただ、ひとつ話をするとすれば・・・

シーリグ:人生は、ゲームです。ゲームにはルールがあります。例えば、お箸を使ったり、名刺を渡したり・・・。私たちの生活の周りにあるものは、すべてゲームのルールです。日本ではビジネスで初めて会った人には、名刺を渡すわけですね。もしも渡さなかったら? きっと変な人だと思われるかもしれませんし、ビジネスチャンスをなくすこともあるかもしれません。それは、ルールに従わなかったことへのパニッシュメントです。チェスや野球、トランプなど、私たちのまわりにはいろいろなゲームがあります。ルールを決めて、何かを競うというゲームが好きなのです。

シーリグ:そして、自分の会社ではそのルールを創れるのです。会社をクリエイティビティの高い組織にしたい場合には、そのようなルールを創れば良いのです。例えば、失敗をしても大きなパニッシュメントが与えられないようなルールを創るのです。失敗に対してパニッシュメントが大きいルールがある組織では、チャレンジはなかなか起こりません。私たちは、ゲームのルールを学ぶのは本当に早いのです。どこかで、チャレンジして失敗し、大きなパニッシュメントを受けている人を組織の中で見かけたら、すぐにそのルールを学んでしまうのです。そのルールを学んだら、チャレンジしようとは思いませんね。

清水:チャレンジやクリエイティビティを高めるルールを創れば良いわけですね。

シーリグ:そうですね。例えば、階層的な会社を考えてみましょう。何をするのにも上司の許可が必要だとします。どんな提案をしても、上司がYESというかどうかがポイントになるとします。その組織では上司が“正しい”というルールになるわけです。これでは組織のクリエイティビティは当然低くなりますね。アイディアはどこからでも湧いて来て、どんどんチャレンジできるようなルールにしないといけないのです。

清水:ゲームのルールですね。

シーリグ:スタンフォード大学には、チャレンジを促進するようなルールがあります。発言しない人は評価されません。新しいアイディアが出てきたときには大きく評価します。日本人であろうが、アメリカ人であろうが、スタンフォードのゲームでは同じルールの中で競争するのです。それが、企業家がどんどん生まれてくる土壌となっているのです。

清水:これは日本人や日本の会社を大きく勇気づけるものですね。ゲームのルールが違えば、高いクリエイティビティを発揮できるという話ですね。

シーリグ:そう。大切なのは、ゲームのルールは変えられるということです。もしも、あなたが今のゲームのルールが気に入らなければ、あるいは今のルールではなかなか勝てないとすれば、ゲームのルールを変えれば良いのです。もしもゲームのルールを変えることが難しければ、自分に合うようなルールでゲームをしているところに移れば良いのです。

清水:日本人は、ルールに従うのはとっても得意ですね。だからこそ、余計にルールが大切ですね。

シーリグ:本当にそうです。日本の組織はどうも、多様性を少なくしてしまうようなルールを持っているところが多いような気がします。新しいアイディアやフレッシュなインプットがなくなってしまうようなルールはまずい。女性やマイノリティ、日本人ではない人、違うバックグラウンドを持つ人などが増えてくると良いですね。

清水:ようやく日本の企業も、グローバルに人材を集めようとし始めました。これは、多様性を増やすという点では大きな刺激になるかもしれませんね。大きなターニングポイントになると良いですね。

シーリグ:ロンドンやニューヨーク、サンフランシスコ、香港など、最もイノベーティブな街は、最も多様性があるところなのです。多様性があるところにこそ、イノベーションは生まれてきたのです。

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清水洋氏プロフィール
1973年横浜市生まれ。
一橋大学商学研究科博士課程単位取得退学(2005年)
London School of Economics and Political Science、Ph.d(2007年)

企業の組織と戦略を歴史的に分析しています。
研究テーマは、競争とイノベーション・意図せざる結果。論文は、「産業政策と企業行動の社会的合成:石油化学工業の『利益なき繁栄』」米倉誠一郎編著『企業の発展』八千代出版、2002年など。
一橋大学イノベーション研究センター准教授。
コラム「雲外蒼天」好評連載中。
●インタヴューを終えて
『20歳のときに 知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義(What I Wish I Knew When I Was 20)』の中に、 面白い実験があります。
スタンフォード大学の学生に5ドルをわたして、ビジネスをさせるというものです。
詳しくは本を読んで欲しいのですが、5ドルに惑わされる学生たちや、自由にビジネスを創れる学生など様々でとても面白いのです。
実は、これと同じエクササイズを一橋大学の1年生のゼミ (一橋は1年生からゼミがあるのです!)でやってみたのです。
その結果は現在執筆中のシーリグさんの本に書かれるそうなので、それを楽しみに待っていて欲しいのですが、日米で1つ大きな違いがあったのです。
それはリーダーシップでした。
エクササイズは、1年生の最初のゼミでやりました。高校を卒業したばっかりの学生たちです。
彼らには、「グループごとにリーダーを決めて、ビジネスをやってください!」とアナウンスしたのですが、1つのグループはそれを聞いていなかったのです。リーダー を決めずに動きだしてしまったのです。
結果はどうでしょう? なんとそのグループは最も多くのビジネスプランを考えついたのですが、どれ一つやってみることができなかったのです。
スタンフォードでは、「リーダーを決めろ」と言わなくても、こういうことは起きなかったそうです。日本で、役割としてリーダーを決めてあげることの大切さを改めて思い知りました。

タイトなスケジュールの中でも、インタビューは刺激に満ちていました。アメリカの大学の先生らしく、どんどん話題が飛んでいきます。
本から受ける印象そのままの人だったのですが、なにより、とにかく自分で話しているのを楽しんでいるのがとても印象的でした。
彼女は、必ずしも自分の専門ではない本を書くことはチャレンジだったといいます。でも、チャレンジって、すごく楽しいのですね。
次のシーリグさんの本がとても楽しみです。