◆白猫黒猫論争とは?

「白猫黒猫論争」という表題を見て、ケ小平が残した名言を瞬時に連想された人は、相当な中国通といえるでしょう。

今日の飛躍的な中国の発展は、改革開放政策の断行なくして考えられません。その改革開放の舵取りを行ったのがケ小平であり、「白い猫でも黒い猫でも、ネズミを捕まえてくれさえすればいい猫だ」という名言は、社会主義国家に市場経済原則を導入するという前例のない試みへの批判や疑問に対し、反駁する意味の言葉でもありました。

「白い猫」「黒い猫」を「社会主義」「資本主義」、「ネズミ」を「経済発展」に置き換えてみると、比喩に隠された本音が見えてくるはずです。毛沢東政権下で文化大革命に象徴される精神至上主義の不条理と弊害を一再ならず体験してきたケ小平にとって、健全な経済活動が円滑に行われる社会の実現は悲願といえるものでした。

その後の改革開放政策の成功は、冒頭の「白猫黒猫論争」においてケ小平の先見の明を証明する結果となり、この流れは昨年7月の共産党80周年大会で江沢民が打ち出した「資本家階級にも入党資格の門戸を広げる」という画期的な党規変更の動きへと継承されます。が、その一方では、現代中国の病巣ともいえる新たな問題も生じました。

その問題とは、拝金主義による汚職・腐敗の蔓延です。「ネズミ」捕獲を第一とする路線が後戻りできない以上、廉潔なプロレタリア政党としての体裁堅持と経済発展の相剋が、今後の課題となることは言うまでもありません。ちなみに「白猫黒猫」はケ小平の創作ではなく、彼の故郷である四川省の諺です。

毛沢東が唱導する急進的な人民公社(集団農業)政策の失敗によって未曾有の凶作に苦吟していた時期、生産性回復のため農家の戸別請負を主張するケ小平が「白い猫でも――」と引用したのが名言のルーツ。この一言がのちの文革で批判の対象となるのですが、改革開放の萌芽は、失脚による失意の日々のなかでも決して枯れることはなかったのです。

弊社刊「図解でわかる100シリーズ」より

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