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デザイン思考で世界を変える
第5回
デザイン思考の実践のためにスタンフォードdスクールが公開しているテキストを意訳してご紹介する連載第5回目。組織をクリエイティブに動かすための具体的なメソッドについて、様々なアイデアがここにある。

【メソッド:Analogous Empathy / 類似共感】


■類似共感することの理由
「Analogous」は「類似」「相似」を意味する言葉。デザイン思考においては対象となるユーザーに「共感」するレベルまで観察することがインサイトを得るための重要な作業とされている。その共感_を得るための作業の過程において、ダイレクトなアプローチではかえって明確な洞察が得られないようなケースも生じてくる。そうした時、この類似共感というメソッドが有効になってくる。
直接的な観察を行うことが困難で、共感化作業が行き詰まってしまいそうな時、類似共感可能な領域をどこか別のところに見つけることができれば、そこからインスピレーションを得ることも可能だ。その領域に対する新鮮な視点が獲得できる可能性も出てくるので、次善の策を発見できるかもしれない。


■どのように類似共感を使うのか
①関心の対象がどのような場合のどのような状況なのか明確にする
現在調査を行っている共感領域のどのような側面が特に興味深いのか、チームで話し合う。例えば病院に関して調査を行っているような場合、常に時間に追われるエキストリームな状況、危険を伴う意思決定、あるいは長い待ち時間などにフォーカスが当てられることもあるだろう。そうした時、現在与えられているデザインチャレンジから少し離れたところに存在する別の領域を探してみる。その場合にも、そこに隠れている、インサイトが横断的に含まれた属性部分は全員で共有したい。

②類似共感のためのブレインストームを行う機会
もしも顧客に対するサービスという要素が、現在探求している領域における重要な側面であるような場合、特に強烈な(あるいは逆に弱い)顧客サービスを受けられそうな領域は何か、というテーマでブレインストームしてみる。またそうした類似領域についてインタビューできそうな人や、素早く観察するための方法について、ブレインストームしてみても良い。

③類似インスピレーションボードの作成
類似領域からの写真や引用によってスペースを埋め尽くす。それによってチームがインスピレーションを互いにシェアすることができる。あるいは作業過程に類似インサイトを持ち込めるようになる。


【メソッド:Story Share-and-Capture / ストーリーのシェアとキャプチャー】


■なぜストーリーのシェアとキャプチャーを行うのか
チームでシェアすることには次のような3つの目的が存在する。
第1に、それによってチームメンバーが、取材現場で(自分ではない)他人の見聞きしてきたことをスピーディに確認できる。そのフィールドワークの現場にチーム全員がいたとしても、各人がそこで経験できることや感じ取ることが同じであるとは限らないからだ。
第2として、より多くの情報に触れ、それを深く追求することによって、チームメンバーは当初感じていたものよりもはるかに多くのニュアンスと意味を、そこでの経験から引き出すことができる。
第3には、フィールドワークの現場において各人がキャプチャーしたものを詳細に捉えていくことにより「スペース埋め尽くし」という次の段階に進めることができる。


■どのようにストーリーのシェアとキャプチャーを行うか
共感のフィールドワークにおいて観察したこと、あなたが実際に見たもの、そして聞いたことをすべてバッグから引っ張り出して全員で共有する。チームメンバー全員がユーザーに関するストーリーについて語り、記述したノートをシェアする。
その間に他のメンバーはそこからヘッドラインを引用し、驚いたこと、興味深く感じた部分などを、ひとつひとつポストイットに書きとめていく。これらのポストイットがチームにとってのスペース埋め尽くしの重要なパーツとなり、そこからテーマやパターンを表すことができるように視覚的にグルーピングしていくことも可能になる。(埋め尽くしとグルーピングのカードメソッド参照)
その最終的な目的は、それぞれに一体何が起こっているのかを理解すること。あなたの問題領域に関して、その人は誰なのか、何を必要としているのかをそこから発見していくのだ。


【メソッド:Saturate and Group / 埋め尽くしとグルーピング】

■なぜ埋め尽くしとグルーピングを行うのか
埋め尽くしによって、それまでに獲得した様々な情報や想いや経験をビジュアルにかつ物理的な存在にすることが可能になる。作業環境がそれら数多くの刺激で満たされていることによって、デザインチームが日常的に情報に触れ、インスパイアされることにつながっていく。さらにそれらの発見をそこから生まれてくるテーマやパターンに従ってグルーピングすることによって、ユーザーにとっての意味あるニーズへと同定する努力が開始され、デザインソリューションへと導かれていくインサイトの発見につながっていく。


■どのように埋め尽くしとグルーピングを行うのか
フィールドワークの中で出会ったユーザーや、関連しそうな商品やシチュエーションなど、すべての興味対象となった事柄が、メモ書きされたポストイットや写真という形をとって作業場所の壁を埋めていく。
情報の整理を始めるために、ポストイットや写真を互いに関連しそうなグループに分類する。ポストイットにメモ書きしている時やそのように収集したデータを荷ほどきしていく過程において、あなたの頭にはすでにグルーピングに使用できる何かしらのパターンやアイデアが浮かんでいるだろう。たとえば、安全という感覚につながるメモが多いとか、効率化を求める意識が現れているなどという発見だ。
その場合にも、安全というテーマを超えた考察が必要になってくる。そこからさらに深く探っていくことで、「安全という感覚は、自分がどこにいるのかということ以上に、自分が誰と一緒にいるのか、ということにより強く関連する」などといったインサイトが発見できるかもしれない。一般的に、安全は効率化を求める人々とは相容れないものだが、こうしたグルーピング作業の中からそれぞれの意外な繋がりに気付かされることも多く、今まで見えなかったグループ相互の関連性も見えてくる。
この作業の最終的な目的は、収集されたデータを興味深い発見へとシンクロナイズしていき、デザインソリューションを創造するための有用なデータへと進化させていくことにある。ちなみに、こうしたグルーピング作業に、フィールドワークからもたらされた、興味深いストーリーが描かれたポストイットが使用されることはごく一般的だ。またグルーピングは製品、モノ、ユーザーにおける類似性を発見するときにも有用である。

(以下、連載第6回に続く)
Hasso Plattner Institute of Design at Stanford University
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