この数ヶ月、インド人と話す機会が多くなった。米国に住んでいるインド人ではない。インドのインド人だ。

三ヶ月程前、米国製コンピューターの調子がおかしくなったため顧客サービス用フリーダイヤル番号に電話すると、担当者が訛りのある英語で電話口に出てきた。長電話の合間に世間話をしながら先方の居場所を聞くと、インドのボンベイだという。

最近話題になっている米国企業の海外アウトソーシングだ。
国境を越えてのアウトソーシングは米国内の失業問題とも絡んで政治問題になっているが、電話顧客サービスに関しては必ずしも悪いことだとは思わない。電話口に出てくるインド人の応対が米国人より丁寧で「お客様扱い」されている感じがするからだ。

日本人の感覚からすればインド人が特に親切ということでもないが、米国人による顧客サービスを経験すると、インド人の応対がとても親切に感じられ、顧客の私の方で「ありがとう」とお礼を言いたくなることさえある。それほどに米国内での顧客サービスは良くないということだ。
つい先日も、インターネット接続問題で、ブロードバンドサービスを提供しているある通信会社に電話する破目になった。録音メッセージに従っていくつか番号を押しバックグラウンドミュージックを聞きながら暫く待っていると、数分後に漸く担当者が電話に出てくれた。昨今は、担当者とすぐ話ができるということは先ずないから、それまではこちらも我慢できた。しかし、用件についてあれこれと話しているうちに、彼女には問題処理能力がないことが明らかになってきた。そればかりではない。彼女の態度が次第に高慢になり、どちらが客だか分からなくなってしまったのだ。余りのサービスの悪さに遂にこちらも頭に来て彼女の上司と話したいというと、保留ボタンを押され、そのまますっぽかされてしまった。

ワシントン郊外の日本車ディーラーを訪れた時には、セールスマンの応対が初めから余りにも横柄だったことから、そのディーラーからの車購入は即止めた。日本車の性能の良さは、日本人はもとより今では米国人の多くが認めるところだと思うが、こうした態度で営業されては何も買う気はなくなるし、日本車メーカーのイメージも悪くなってしまう。

英語がよくできない顧客への応対も、目に余る時がある。何年か前にニューヨークのスーパーで買い物をした際、顧客の英語がよく理解できなかったせいか、“What do you want?(「何が欲しんだよ?」)”と攻撃的な調子で言葉を投げかけている店員を目の当たりにし、呆れてしまった。客が何か悪いことでもしたというのだろうか。英語を共通語としている社会だから英語を話せない方が悪いと言われればそれまでだが、英語を母国語としない移民や外国人にもう少し優しく接してあげられないものだろうか。

もちろん、米国における顧客サービスが全て悪いなどと言うつもりは毛頭ない。明るくて気さくな担当者が電話口に出てくると、話題が脱線して天候、趣味、時には家庭の話にまで及び、何かしら楽しい思いをすることもある。また、チップ目当てに働いているウェイターやウェイトレスは、通常、お客さんが誰であろうと笑顔で迎えてくれるものだ。しかし、米国で生活していると、気分を悪くさせられる出来事にも頻繁にぶつかる。そしてその度に、日米の顧客サービスの違いを思い知らされるのだ。

私だけではない。ビジネスや観光旅行で日本を訪れた米国人が、日本のサービスの良さに強い印象を受けて帰ってくる。ワシントンDCのある事業家は日本滞在中、予想外の経験をしたらしく、日本人のサービスの質の高さをベタ褒めしていた。また、同様な高質のサービスを彼自身目指したいとも言っていた。

こうした日米の顧客への接し方の相違は、時としてグローバル企業に厄介な問題をもたらす。ある米系多国籍企業は、日本の顧客(金融機関)からの苦情に適切に対応しなかったため、酷い目にあった。米国中西部から全世界の顧客システム管理をしていた同企業は、定期的にネットワークの点検、修理、改善等をしていたのだが、そうした作業は米国時間の日曜日の夜(日本時間の月曜日の朝)よく行われた。しかも、時には日本子会社に事前に連絡することもなく。当然のことながら週明けには顧客からの苦情が相次ぎ、日本のスタッフは一日中その対応に追われたという実にお粗末な話。

また、同日本子会社は営業面でも随分苦労した。というのも、ちょっとした欠陥であれば欠陥付き商品をそのまま販売するという米国流のセールスを日本市場でも実行せざるを得なかったからだ。製品に何か問題があったとしても、次にリリースされる新バージョンにアップグレードすればその問題は解決できるのだから、顧客にとって特に問題にはならないという論理だ。こうしたやり方は、製品・サービスに対する顧客の期待感が異なる日本では通用しないのではないか。

いずれも、口では「顧客重視」といいながら実行が伴わない米国企業の例だ。これでは、どんなに優れた商品、技術を持っていたとしてもグローバル企業としての成功は望めないだろう。

もちろん程度の問題であり、また時と場合にもよるが、米国は基本的に「自分本位」の社会であり、顧客サービスといってもそこには自ずと限界がありそうな気がする。顧客への気配りやきめ細かいサービス、顧客の立場に立った提案、等々「顧客本位」のサービスというのが米国企業にはあまり感じられない。自分の意見や感情を相手に対して明確に伝えることが前提とされる米国社会では、「お客様は神様」的アプローチを理解し実行することには少し抵抗があるのかもしれない。

今日の米国企業はいろいろな面で強いと思う。しかし顧客サービスにおいては日本企業はおそらく誰にも負けないのではないか。その長所を十分生かすことで日本企業の競争力は一層高まり、米国市場においても顧客ベースの更なる拡大が可能になると思う。米国での顧客サービスの酷さに辟易している私の単なる偏見だろうか。

Copyright by Atsushi Yuzawa 2004


株式会社アイ・イーシー 東京都千代田区飯田橋4-4-15
All Rights Reserved by IEC
本サイトのコンテンツの無断転載を禁止します