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第30回:これからが日本のビジネスマンの力の見せどころ
 東北地方太平洋沖地震により被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。

今回の地震や原子力発電所での事故の経済的な影響は、さまざまな試算がされています。だいたい10兆から25兆円程度というものが多いようです。復興に向けた投資が生産を押し上げる効果を考えたとしても、中長期的な日本経済への影響は大きなものになるでしょう。もちろん、復興を考えるときには、経済面だけでなく、社会的、文化的な面も大切になってきます。ただ、ここでは経済的な側面に絞って、イノベーションという観点から考えてみましょう。

▲現状の回復では、それにかかるコストを回収できないため、経済的には大きなマイナス
 経済にとって今回のような震災や戦争は、大きな外的なショックと考えられます。明治維新以後、日本は戦争や関東大震災などさまざまな外的なショックを経験してきました。そして、そのたびに「復興」を果たしてきました。例えば、14万人の死者・行方不明者がでた関東大震災のケースは、1923年と24年は特許の数は2000件を大きく下回りましたが、1925年からは大きく上昇していました。つまり、震災後、企業はその研究開発を積極的に行っていたのです。また、第2次世界大戦後の日本のGNPはフィリピンやメキシコと同じ程度であったのですが、高度経済成長を遂げ、1968年には世界第2位にまでなったのです(資本主義国で)。

 この復興を支えたのは、いうまでもなくイノベーションです。ジョセフ・シュムペーターは、イノベーションを次の5つに分類しています。

新しい製品の導入
新しい生産手段の導入
新しいマーケットの発見
新しい原料や半製品の導入
新しい組織の導入

すべてに「新しい」とついていますが、新しければ何でも良いというわけではなりません。経済的な価値を生み出さないといけないのです。いくら新しくてもそれが経済的な価値を生み出さなければイノベーションとは言えません。

エジソンの最初の発明は、電気投票システムでした。当時のイギリスの議会では、牛歩戦術によってなかなか法案が通らなかったのです。そこでエジソンは、あっという間に投票が出来て、すぐに結果が分かるように電気投票システムを発明したのです。しかし、これはまったく売れませんでした。牛歩は極めて重要な政治的な戦術であったため、採用されなかったのです。「新しい」インベンション(発明)ではあったのですが、イノベーションとはならなかったのです。
 
「新しい」というと、「そんなに新しいことなど思いつかない」という声が聞こえてきそうです。しかし、大切なのはこの「新しさ」とはニュー・コンビネーション(新結合)というところにあるのです。全てが新しい必要はないのです。全ての点で新規性があるものなどなかなかありません。既にあるコンビネーションの組み替えでも「新しい」のです。

 「既存のものの組み合わせを変えるだけなら、簡単じゃないか」と思われる人もいるでしょう。「じゃあ、なぜイノベーションはなかなか生み出されないの」と考える人もいるでしょう。これは、「コンビネーション」だからなのです。禅問答のようになってしまいますので、少し詳しく説明しましょう。

 大きいイノベーションがなかなか生まれないのは、技術や市場、組織や生産手段などの要素に補完性があるからです。要素の間の結びつきが上手くいっていればいるほど、効率性は高まります。効率性が高まれば、なかなかそのコンビネーションを新しくしようとは思わないのです。例えば、日本の新幹線の年間の平均遅延時間は、8秒だと言います。驚くべき数字です。この極めて高い効率性は、新幹線の技術やJRの運行、組織の構造などのそれぞれの要素のコンビネーションを洗練させてきた成果なのです。わざわざ上手くいっているものを壊そうとはだれも思いません。

 しかし、どんなに洗練された良いコンビネーションでも、時間が経つと、社会の変化や新しい市場に上手くフィットしなくなってきます。新幹線の技術を世界に売り込むときに、平均遅延時間が8秒だからと言っても、それよりも安い方が良いと言われてしまうのです。

シュムペーターは、イノベーションを「創造的破壊」と捉えていました。既存の結びつきを破壊して、新しいコンビネーションを創造するわけです。今回の震災のような外的なショックは、既存のコンビネーションを大きく壊すものです。これは既存のコンビネーションを大きく組み替えるチャンスでもあります。

今回の震災の復興に政治的に大きな額が投じられるでしょう。しかし、それがもとのコンビネーションを回復することに使われるのでは、問題です。古い設備で生産を続けてきたような企業は今回の震災で設備を復旧することができなくなるかもしれません。そのような企業が多く倒産すれば、そこに政治的な資金が配分されるかもしれません。しかし、以前の状態の単なる回復ではさらなるゾンビ企業が作り出されるだけです。壊れたコンビネーションを、そのままもとに戻すのではイノベーションは生まれません。ただの現状の回復では、それにかかるコストを回収できないため、経済的には大きなマイナスとなってしまいます。これまでのコンビネーションを回復するのではなく、創造的に新しいコンビネーションを生み出していく必要があります。

第二次世界大戦後、日本の高度経済成長を支えてきたのは鉄鋼業や自動車産業でした。しかし、原材料の鉄鉱石を輸入に頼る日本で鉄鋼業が基幹産業となると誰が考えたでしょうか。誰がイギリスからの技術導入に頼っていた自動車産業が、その後の日本経済を支える存在になると考えたでしょうか。そこには新しいコンビネーションを構想し、実行したマネージャーたちがいたのです。

 どのようなコンビネーションを創り出せるかは、マネジメントの仕事です。復興にはさまざまな形での貢献の仕方があると思います。それぞれの専門性を発揮して貢献するのが最も生産性が高いでしょう。今回の震災は日本の財政に中長期的に大きな影響を及ぼしうるものです。ビジネスマンはぜひともその専門性を活かして、大きな貢献をしてもらいたいと思っています。ビジネスマンの専門性? イノベーションに決まっているじゃないですか!


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